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2010年01月22日

高谷コラム:名柔道家・神田久太郎 其の壱

当コラムにおいては前々回まで、ブラジリアン柔術競技における「マスター&シニア」カテゴリーの意義ともいうべき点を、講道館柔道の状況とあわせて論じてきた。

今回は、筆者もその姿勢を見習いたいと思う「アダルト」と「マスター&シニア」をまたにかけて活躍した昭和前期の柔道家・神田久太郎九段について紹介したい。(以下敬称略)

 以前にも述べたとおり、昭和5年に始まった「全日本柔道選士権大会」においては柔道をその生業とする「専門」とそれ以外の「一般」に競技者を区分した上で、それぞれ「壮年前期」「壮年後期」「成年前期」「成年後期」と、計8つのカテゴリーが存在していた。

「壮年前期」は20〜30歳未満、「壮年後期」は30〜38歳未満、「成年前期」は38〜44歳未満、「成年後期」は44歳以上、という区分けであった。

 現在のブラジリアン柔術におけるような、若いカテゴリーには出ることが出来る、といった規定はなかったようだ。

 満州の関東州庁で柔道教師を務めていた「専門」の神田は、34歳であった昭和5年の第一回大会から自らの年齢カテゴリーに積極的に出場、昭和6年の第二回大会で「壮年後期」(「壮年前期」ではかの木村政彦の師匠・牛島辰熊が優勝している)、昭和11年第六回大会40歳時に「成年前期」と、二度の優勝を果たしている。

 さてこの間昭和9年、「全日本」とは別に柔道史に残る大試合が行われている。

 「皇太子殿下御誕生奉祝天覧武道大会」柔道競技。今上陛下ご生誕を記念した大会。

 この大会では「専門」「一般」の区分けに近い概念として「指定選士」「府県選士」を分けてはいたものの、年齢別カテゴリーは存在しなかった。

 当時38歳の神田は「指定選士」にエントリー、四つに分けられた予選リーグを突破して決勝トーナメント・天覧の部に進出している。そして準決勝も得意の「肩車」で一本勝ち、ついには決勝進出を果たしている。

 決勝こそ、予選リーグで牛島辰熊を破った大谷晃の背負い投げに宙を舞ったが、38歳での天覧試合決勝進出に昭和天皇はもちろん役員席にいたであろう講道館柔道創始者・嘉納治五郎師範も大いに拍手を送ったのではないだろうか。

そしてその戦いぶりにも…

 さらに驚くなかれこの神田久太郎、戦後第一回の昭和23年「全日本柔道選手権」(言わずと知れた現在でも続く柔道の最高権威、専門・一般や年齢、もちろん体重といった全てのカテゴリーをオープンとした大会である)に53歳で出場、しかも一回戦突破という壮挙を果たしているのだ。

 これまでにも、そして今後にも53歳での「全日本柔道選手権」出場は唯一であろうと断言されているところである。
 
 現在、30歳以上のブラジリアン柔術家の多くが「マスター&シニア」カテゴリーで競技生活を送っていることは素晴らしいことであるが、一旦その世界に定着してしまうとなかなか「アダルト」カテゴリーに出場しようという機会から遠ざかってしまうものではないだろうか。

 筆者自身にもその傾向を感じているところであるが、神田久太郎のような心意気を常に持っていたいものである。

 さてこの柔道家、当時から「特異技」の名手とも云われた独自のスタイルを持っていた。次回はその戦いぶりに触れてみたい。




今回の主な参考文献、昭和50年東京スポーツ新聞社から発行された工藤雷介著「秘録日本柔道」。
講道館による正史とは一線を画した「逆説の柔道史」ともいうべき一冊。
実に面白い!



高谷聡(こうたに・さとし)
パラエストラ吉祥寺・代表。
ブラジリアン柔術・黒帯、柔道四段。
BJJFJ公認B級審判員。
現CSF(コンバット・サブミッション・ファイティング)王者。
CSF王座は2007年6/1、ニュージーランド、オークランド、トラスト・スタジアムにて前王者、ニール・スウェイルスと戦い、これを延長戦の末にポイント判定で降し王座獲得。

王座獲得の後、2年ぶりに王座防衛戦を行い、激戦の末に王座防衛を果たす。(2009年5月)

★CSF王座防衛戦の様子はコチラから!

★CSF王座獲得のの詳細は2007年06月01日のこのブログのニュージーランド編を参照のこと。

☆ニュージーランド編はコチラ、画像はコチラ


★著者経歴
・昭和45年2月11日生まれ、39才(独身)
・昭和57年、12才で武道を始める。
・昭和59年、合気道初段。
・昭和61年、16才で柔道に転じ以降、高校・大学・実業団にて選手として出場。
・現在は母校の柔道部監督を務める。
・平成7年、柔道4段取得。
・実業団所属時代、鈴木道場サンボクラスに入門、初段を取得。
・平成9年、鈴木道場サンボクラスに出稽古の中井祐樹先生と知り合う。
・同年末に開設されたパラエストラ東京(当時パレストラ東京)に入門、ブラジリアン柔術を始める。
・平成13年、パラエストラ吉祥寺を設立。
・平成17年、ブラジリアン柔術の黒帯を取得。
・好きな女優は池脇千鶴、おニャン子クラブでは白石麻子が好きだった。

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