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2010年04月03日

高谷コラム:名柔道家・神田久太郎 其の弐

 当コラムにおいて以前紹介した、53歳にして「アダルト」全日本柔道選手権で大健闘した神田久太郎九段。

その戦いぶりは、まるで現在柔道の世界で大激震を起こしているルール問題に一石を投じるかのような、「特異」な技のオンパレードであったという。

 神田はこの時代には珍しくなかったいわゆる古流柔術(楊心流戸塚派)から講道館柔道への転向組。彼の語り継がれる名勝負は大相撲出身のライバル・須藤金作との二度にわたる対決である。

 最初の対戦は昭和5年の第一回全日本柔道選士権大会・専門壮年後期(30〜38歳)の決勝戦。寝技も得意としていた神田はバックをとっての送り襟絞めなどで攻める。 

そして中盤、まさかの猫だましから「双手刈り」の奇襲、もろに受けてしまった須藤は、苦し紛れに抱え込みいわゆる「俵返し」で応戦した。

 タックルに対し帯取りなどで返した場合、現在のブラジリアン柔術ならば結果的に上になった選手にテイクダウンとしてのポイントを与えると審判規定に明記されているが、講道館柔道には当時はもちろん現在でもそのような定義はなく、投技としての効果の判断は審判員の眼力に委ねられている。

(その「審判員の眼力」という点で近年最も稚拙なミステイクがシドニーオリンピック・篠原vsドゥイエでのものであろう)

 非常に審判泣かせであったろう攻防の結果、自らの勝ちを確信していた神田は予想外の判定負けを喫することとなる。

 雪辱を期した二度目の対戦は昭和11年の第六回全日本・専門成年前期(38歳〜44歳)の決勝戦であった。

 神田は左組みから釣り手だけの内股で須藤の体勢を崩し、直後に右から肩車に入るという「特異」な技をみせた。

 筆者ももちろん映像や画像を見たわけではないがまるでサンボの試合のようなシーンが展開されたことであろう。

 さらに神田は肩の上でもがく須藤を通常の肩車と違う、自身の真正面に落としてみせた。

 これは古流柔術でいう「絹担」という技術であった。

 このような神田の試合振りを伝聞するだけでも、独自の研究を重ねた技術やそのキャラクターというものがその競技シーンを面白いものにし盛り上げてくれたということは容易に想像がつく。

 そういったことは現代でも柔道に限らず各スポーツ、もちろんブラジリアン柔術においても当然あり得ることであろう。
 
 昨年から柔道の国際大会では「直接脚をとる」行為が反則となった。

 それも一発で反則負けになるという厳しさである。

 神田が得意とした、そしてれっきとした「講道館柔道」の技術である双手刈りや肩車はほぼ絶滅という状態となった。

 正しい柔道や技術とは何かという本質的な議論が本題として検討された結果とはとうてい思えない。

 今後、祖先とも言える講道館柔道がたどったように世界に普及していかなければならないブラジリアン柔術。

 その競技性がくれぐれも本質を無視したパワーバランスや政治的な意図によって湾曲されることのないことを祈るばかりである。



昭和5年に神田九段が逃した全日本柔道選士権大会・専門壮年後期の優勝旗。




参考文献は「近代柔道」昭和62年4月号。
「昭和の三四郎」特集号で表紙は岡野功師。
筆者は高校3年になる時期であった。




高谷聡(こうたに・さとし)
パラエストラ吉祥寺・代表。
ブラジリアン柔術・黒帯、柔道四段。
BJJFJ公認B級審判員。
現CSF(コンバット・サブミッション・ファイティング)王者。
CSF王座は2007年6/1、ニュージーランド、オークランド、トラスト・スタジアムにて前王者、ニール・スウェイルスと戦い、これを延長戦の末にポイント判定で降し王座獲得。

王座獲得の後、2年ぶりに王座防衛戦を行い、激戦の末に王座防衛を果たす。(2009年5月)

★CSF王座防衛戦の様子はコチラから!

★CSF王座獲得のの詳細は2007年06月01日のこのブログのニュージーランド編を参照のこと。

☆ニュージーランド編はコチラ、画像はコチラ


★著者経歴
・昭和45年2月11日生まれ、40才(独身)
・昭和57年、12才で武道を始める。
・昭和59年、合気道初段。
・昭和61年、16才で柔道に転じ以降、高校・大学・実業団にて選手として出場。
・現在は母校の柔道部監督を務める。
・平成7年、柔道4段取得。
・実業団所属時代、鈴木道場サンボクラスに入門、初段を取得。
・平成9年、鈴木道場サンボクラスに出稽古の中井祐樹先生と知り合う。
・同年末に開設されたパラエストラ東京(当時パレストラ東京)に入門、ブラジリアン柔術を始める。
・平成13年、パラエストラ吉祥寺を設立。
・平成17年、ブラジリアン柔術の黒帯を取得。
・好きな女優は池脇千鶴、おニャン子クラブでは白石麻子が好きだった。

★高谷さんの人気コラムシリーズはコチラから、ブログはコチラから!



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この記事へのコメント

1. Posted by NDM   2010年04月04日 21:48
柔道の場合、双手と俵ではどちらに手が挙がるのでしょうか。ケースバイケースかな?
2. Posted by 高谷   2010年04月05日 23:16
やはり審判の判断によりケースバイケースですが、双手刈りをとる傾向が強いかと思います。

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