2010年06月13日
新刊:『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』著者レビュー
今月初旬に晋遊舎から発売された新刊『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』が話題になっています。
この本は発売して間もないにも関わらず「サンボの起源とそのルーツに迫った名著!」と絶賛されており、関係各者からも評価が高い1冊のようです。
自分のところにも有難いことに献本を頂いたので読むのを楽しみにしているところです。
もちろんこのブログはブラジリアン柔術とグラップリングに特化したものですがサンボも組技として興味がある方も多いと思い、著者である和良氏にレヴューを依頼した次第です。
和良氏とは一時期、同じ格闘技雑誌で仕事をしていたこともあり、この依頼を快諾して頂きました。
ぜひこのレヴューを読んで興味を持たれた方はぜひご購入をお願いします。
このような専門書は刷り部数が少なく、後でいいかな、と思ってると瞬く間に入手困難、ということも少なくありません。
「買わずに後悔するなら買って後悔しろ」ですよ!
まあこの本に限っては買って後悔することはあり得ないでしょうけれどね。
では著者からのレヴューです。
『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』
このたび、「著者から『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』の内容を紹介せよ」とのありがたいお声が掛かり、喜んで承りました。
まず、サンボというのは今から約70年前、旧ソ連のスターリン時代に誕生した格闘技です。
大テロルが激しかった時代、間もなく第二次世界大戦が始まろうとする時代に誕生した意味は、もちろんあります。
タイトル名から推察されるように、この格闘技は軍、秘密警察といった国家権力との間に、どのような密接な関係があったのかという考察が、本書の大きなテーマとなっています。
本書の構成は大きく四つに分かれています。
第一部 スターリン時代に生まれた格闘技
第二部 すべての権力をソヴィエト・スポーツに
第三部 実戦戦闘術コンバットサンボの真実
第四部 サンボは柔道なのか?
第一部は、サンボの歴史を追っています。
サンボの歴史は、柔道やブラジリアン柔術に比べると、いくぶん複雑です。
ソ連時代、アナトリー・ハルランピエフという人物が長い間、“オフィシャル”ではサンボの創始者であり続けました。
しかし、本当に創始者と呼べるのは、日本で講道館柔道を学び、1937年に「日本のスパイ」という無実の罪で粛清されたワシーリー・オシェプコフです。
オシェプコフの死後、この格闘技にはまったく新しい名前がつけられ、「ソ連各地の民族レスリングの長所を取り入れてつくった」という物語ができ、国技として祭り上げられました。
この格闘技がさまざまな民族レスリングの技を取り入れたのは事実ですが、柔道の存在を全く無視したという点では、ある意味、嘘に近いものでした。
そして、創始者の座には、新たにオシェプコフの弟子であったハルランピエフが坐したわけです。
サンボの誕生には、もう一人、ビクトル・スピリドノフという人物が関わっています。
スピリドノフは“柔術家”でした(柔術といっても、ブラジリアン柔術ではなく、日本の柔術です)。
柔術家スピリドノフはオシェプコフと同時代に着衣格闘技を開発し、オシェプコフとモスクワで対立していました。
この第一部では、真の創始者は誰かということを、さまざまな資料や調査をもとに検証しています。
ちなみに、サンボの歴史ということでは、日本では古くから「広瀬武夫中佐がロシアで柔道を露帝の前で披露し、大男3人を投げ飛ばした」という珍説が、サンボの起源と結び付けられて語られています。
この広瀬中佐サンボ起源説はウィキペディアにも載っていますが、第一部では資料をもとに完全に否定しています。
第二部では、ソ連がサンボという格闘技だけでなく、五輪におけるステートアマの活躍に見られるように、国を挙げてスポーツに注力していった歴史を追いました。
そこには、「ディナモ」という秘密警察のスポーツ組織も大きな役割を果たしています。
ディナモ、KGB、内務省での権力者であったバグダノフという人物にもインタビューしました。
ソ連のスポーツはペレストロイカを経てエリツィン政権になる過程で、混乱の極みに達します。
当時のことを、ある「サンボの英雄」にも回顧してもらいました。
しかし、プーチンが政権についてから、スポーツ及びサンボを巡る環境は、さらに変わっていくのです。
第三部では、軍隊で使われる実戦戦闘術「コンバットサンボ」を取材しました。
空挺部隊にも潜入取材を敢行しています。
このコンバットサンボは、軍隊でも一部の人間だけが学べる戦闘術です。
近年ではスポーツとしてのコンバットサンボの大会が開かれるようになりました。
そう、「ヒョードルが優勝した」などと専門誌に報道される、サンボ衣着用の総合格闘技です。
しかし、もともとルールの無い実戦を想定したコンバットサンボと、競技スポーツとしてのコンバットサンボとは、同じ名前でもその本質は全く違います。
最近ではその矛盾を解消するためか、「実戦への回帰」ともいうべき現象が起こっています。
第四部では、サンボの技術論です。
ここでは柔道との違いを軸に論じています。
まずソ連のサンビストが初来日し、日本の柔道家と各地で対抗戦を行なった1963年2月の出来事を詳述しました。
このとき、大将格のシュリッツは4戦無敗を誇り、結果として、東京五輪を間近に控えた日本柔道界に危機感を煽りました(そして本番ではオランダのアントンヘーシンクに金メダルを取られるわけですが)。
しかしながら、日本ではサンボというのは、「しょせん柔道を真似たものだ」という見方がされてきました。
もともと「シュリッツ旋風」の時点になされたサンボ批判に、その論点自体は出尽くされており、第四部は、その「サンボ批判」を批判するという試みです。
また、〈創始者〉オシェプコフの技術写真と動画を現地取材で手に入れたので、これを柔道の視点から柏崎克彦先生、サンボの視点から田中康弘先生に徹底的に解説してもらっています。
ここからは、1930年代の原始サンボは、柔道とサンボを結ぶラインのどこに位置するか、ということも浮かび上がってきます。
ブラジリアン柔術の愛好家にとっては、技術論を中心に展開される第四部は、特に興味深く読めるのではないかと思います。
正直、本としては専門書のような価格(本体2200円+税)ですが、しかし、何十年という単位で「こんな本」はしばらく出て来ないと思っています。
少なくとも、日本国内では。
あまり深く掘り下げられなかった箇所があります。
きっと間違いもあります。
でも、本当にそういう本だと思っています。
少部数なので大手書店中心の配本になるでしょうが、手に入りにくい環境の方はぜひアマゾンなどのネット書店を活用し、早めのご購入をよろしくお願いします!■
『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』
和良 コウイチ 著
2310円
発売中!
★購入はコチラから!
★著者のブログ「溺れる者、摑むべからず。」はコチラから!
★「今後これを超える本はロシアでも出ないのではないか?」と萩原幸之助(特化護身術・靭術代表)氏も絶賛のレヴューはコチラから!
★長尾メモ8氏のレヴュー「今一番必要なのは格闘技を魅力的に語る力」はコチラから!
この本は発売して間もないにも関わらず「サンボの起源とそのルーツに迫った名著!」と絶賛されており、関係各者からも評価が高い1冊のようです。
自分のところにも有難いことに献本を頂いたので読むのを楽しみにしているところです。
もちろんこのブログはブラジリアン柔術とグラップリングに特化したものですがサンボも組技として興味がある方も多いと思い、著者である和良氏にレヴューを依頼した次第です。
和良氏とは一時期、同じ格闘技雑誌で仕事をしていたこともあり、この依頼を快諾して頂きました。
ぜひこのレヴューを読んで興味を持たれた方はぜひご購入をお願いします。
このような専門書は刷り部数が少なく、後でいいかな、と思ってると瞬く間に入手困難、ということも少なくありません。
「買わずに後悔するなら買って後悔しろ」ですよ!
まあこの本に限っては買って後悔することはあり得ないでしょうけれどね。
では著者からのレヴューです。
『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』
このたび、「著者から『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』の内容を紹介せよ」とのありがたいお声が掛かり、喜んで承りました。
まず、サンボというのは今から約70年前、旧ソ連のスターリン時代に誕生した格闘技です。
大テロルが激しかった時代、間もなく第二次世界大戦が始まろうとする時代に誕生した意味は、もちろんあります。
タイトル名から推察されるように、この格闘技は軍、秘密警察といった国家権力との間に、どのような密接な関係があったのかという考察が、本書の大きなテーマとなっています。
本書の構成は大きく四つに分かれています。
第一部 スターリン時代に生まれた格闘技
第二部 すべての権力をソヴィエト・スポーツに
第三部 実戦戦闘術コンバットサンボの真実
第四部 サンボは柔道なのか?
第一部は、サンボの歴史を追っています。
サンボの歴史は、柔道やブラジリアン柔術に比べると、いくぶん複雑です。
ソ連時代、アナトリー・ハルランピエフという人物が長い間、“オフィシャル”ではサンボの創始者であり続けました。
しかし、本当に創始者と呼べるのは、日本で講道館柔道を学び、1937年に「日本のスパイ」という無実の罪で粛清されたワシーリー・オシェプコフです。
オシェプコフの死後、この格闘技にはまったく新しい名前がつけられ、「ソ連各地の民族レスリングの長所を取り入れてつくった」という物語ができ、国技として祭り上げられました。
この格闘技がさまざまな民族レスリングの技を取り入れたのは事実ですが、柔道の存在を全く無視したという点では、ある意味、嘘に近いものでした。
そして、創始者の座には、新たにオシェプコフの弟子であったハルランピエフが坐したわけです。
サンボの誕生には、もう一人、ビクトル・スピリドノフという人物が関わっています。
スピリドノフは“柔術家”でした(柔術といっても、ブラジリアン柔術ではなく、日本の柔術です)。
柔術家スピリドノフはオシェプコフと同時代に着衣格闘技を開発し、オシェプコフとモスクワで対立していました。
この第一部では、真の創始者は誰かということを、さまざまな資料や調査をもとに検証しています。
ちなみに、サンボの歴史ということでは、日本では古くから「広瀬武夫中佐がロシアで柔道を露帝の前で披露し、大男3人を投げ飛ばした」という珍説が、サンボの起源と結び付けられて語られています。
この広瀬中佐サンボ起源説はウィキペディアにも載っていますが、第一部では資料をもとに完全に否定しています。
第二部では、ソ連がサンボという格闘技だけでなく、五輪におけるステートアマの活躍に見られるように、国を挙げてスポーツに注力していった歴史を追いました。
そこには、「ディナモ」という秘密警察のスポーツ組織も大きな役割を果たしています。
ディナモ、KGB、内務省での権力者であったバグダノフという人物にもインタビューしました。
ソ連のスポーツはペレストロイカを経てエリツィン政権になる過程で、混乱の極みに達します。
当時のことを、ある「サンボの英雄」にも回顧してもらいました。
しかし、プーチンが政権についてから、スポーツ及びサンボを巡る環境は、さらに変わっていくのです。
第三部では、軍隊で使われる実戦戦闘術「コンバットサンボ」を取材しました。
空挺部隊にも潜入取材を敢行しています。
このコンバットサンボは、軍隊でも一部の人間だけが学べる戦闘術です。
近年ではスポーツとしてのコンバットサンボの大会が開かれるようになりました。
そう、「ヒョードルが優勝した」などと専門誌に報道される、サンボ衣着用の総合格闘技です。
しかし、もともとルールの無い実戦を想定したコンバットサンボと、競技スポーツとしてのコンバットサンボとは、同じ名前でもその本質は全く違います。
最近ではその矛盾を解消するためか、「実戦への回帰」ともいうべき現象が起こっています。
第四部では、サンボの技術論です。
ここでは柔道との違いを軸に論じています。
まずソ連のサンビストが初来日し、日本の柔道家と各地で対抗戦を行なった1963年2月の出来事を詳述しました。
このとき、大将格のシュリッツは4戦無敗を誇り、結果として、東京五輪を間近に控えた日本柔道界に危機感を煽りました(そして本番ではオランダのアントンヘーシンクに金メダルを取られるわけですが)。
しかしながら、日本ではサンボというのは、「しょせん柔道を真似たものだ」という見方がされてきました。
もともと「シュリッツ旋風」の時点になされたサンボ批判に、その論点自体は出尽くされており、第四部は、その「サンボ批判」を批判するという試みです。
また、〈創始者〉オシェプコフの技術写真と動画を現地取材で手に入れたので、これを柔道の視点から柏崎克彦先生、サンボの視点から田中康弘先生に徹底的に解説してもらっています。
ここからは、1930年代の原始サンボは、柔道とサンボを結ぶラインのどこに位置するか、ということも浮かび上がってきます。
ブラジリアン柔術の愛好家にとっては、技術論を中心に展開される第四部は、特に興味深く読めるのではないかと思います。
正直、本としては専門書のような価格(本体2200円+税)ですが、しかし、何十年という単位で「こんな本」はしばらく出て来ないと思っています。
少なくとも、日本国内では。
あまり深く掘り下げられなかった箇所があります。
きっと間違いもあります。
でも、本当にそういう本だと思っています。
少部数なので大手書店中心の配本になるでしょうが、手に入りにくい環境の方はぜひアマゾンなどのネット書店を活用し、早めのご購入をよろしくお願いします!■
『ロシアとサンボ〜国家権力に魅入られた格闘技秘史』
和良 コウイチ 著
2310円
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★「今後これを超える本はロシアでも出ないのではないか?」と萩原幸之助(特化護身術・靭術代表)氏も絶賛のレヴューはコチラから!
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この記事へのコメント
1. Posted by おぐおぐ 2010年06月13日 11:27
今まさに読んでいますが、たまらなく興味深く面白いですね。早く読みたいけど、読むのがもったいない!
2. Posted by Kinya 2010年06月14日 14:08
みんな絶賛しかしないよ!
誰か一人ぐらいケチつけるやつはいないのか?!
誰か一人ぐらいケチつけるやつはいないのか?!
3. Posted by 晋遊舎・格闘技編集部 2010年06月14日 22:25
「ロシアとサンボ」を担当しました(株)晋遊舎、格闘技編集部・須々あきらです。
この本が売れないご時世に「本物ならば必ず伝わるはず!」という想いのもと出版にいたることができました。
著者・和良コウイチ氏をして「(本書執筆によって)今生での使命は果たした」とまで言わしめた力作です。
格闘技愛好家の知的好奇心を刺激して止まない一冊、是非ひとりでも多くの方に読んでいただきたいです!
本書は格闘技好き著名人からも激奨されています。
☆
本書によって、ぼくは、初めて通史としてサンボの歴史を
俯瞰することができた。貴重な一冊である。
─夢枕獏(『飢狼伝』『東天の獅子』作者)
☆
“昭和の三四郎”から一本!
社会主義と柔道に隠された、サンボの真実。
─松原隆一郎(東京大学大学院教授)
(※帯より抜粋)
その他、ブログやHP、ツイッターでも書評が出始めていますので一部を紹介させていただきます。
☆
「ロシアンパワー養成法」著者&サンボラボ主催・足立弘成氏
http://gold.ap.teacup.com/sombolabo/530.html
☆
萩原幸之助氏(特化護身術・靭術代表)
http://blogs.yahoo.co.jp/hagi0319/63566097.html
「今後これを超える本はロシアでも出ないのではないか?」
☆
ビクトル古賀先生のご子息・古賀徹氏
http://koga.at.webry.info/201006/article_3.html
☆
長尾メモ8氏
http://d.hatena.ne.jp/memo8/20100612/p1
「今一番必要なのは格闘技を魅力的に語る力」
サンボ愛好家はもとより、グラップリング&柔術愛好家も楽しめる本「ロシアとサンボ」をよろしくお願いします。
この本が売れないご時世に「本物ならば必ず伝わるはず!」という想いのもと出版にいたることができました。
著者・和良コウイチ氏をして「(本書執筆によって)今生での使命は果たした」とまで言わしめた力作です。
格闘技愛好家の知的好奇心を刺激して止まない一冊、是非ひとりでも多くの方に読んでいただきたいです!
本書は格闘技好き著名人からも激奨されています。
☆
本書によって、ぼくは、初めて通史としてサンボの歴史を
俯瞰することができた。貴重な一冊である。
─夢枕獏(『飢狼伝』『東天の獅子』作者)
☆
“昭和の三四郎”から一本!
社会主義と柔道に隠された、サンボの真実。
─松原隆一郎(東京大学大学院教授)
(※帯より抜粋)
その他、ブログやHP、ツイッターでも書評が出始めていますので一部を紹介させていただきます。
☆
「ロシアンパワー養成法」著者&サンボラボ主催・足立弘成氏
http://gold.ap.teacup.com/sombolabo/530.html
☆
萩原幸之助氏(特化護身術・靭術代表)
http://blogs.yahoo.co.jp/hagi0319/63566097.html
「今後これを超える本はロシアでも出ないのではないか?」
☆
ビクトル古賀先生のご子息・古賀徹氏
http://koga.at.webry.info/201006/article_3.html
☆
長尾メモ8氏
http://d.hatena.ne.jp/memo8/20100612/p1
「今一番必要なのは格闘技を魅力的に語る力」
サンボ愛好家はもとより、グラップリング&柔術愛好家も楽しめる本「ロシアとサンボ」をよろしくお願いします。