2026年07月01日
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【書評】ヒクソン・グレイシー「わが柔術哲学」by 石井拓【ブラジリアン柔術】

ご無沙汰してます。
改めまして、LATENS JIU JITSUの石井です。
この著書は、2024年に英語版で発売されていた『COMFORT IN DARKNESS』の日本語版「わが柔術哲学」が5月下旬に、ついに日本でも発売されたのでその感想をお伝えしたいと思います。
英語版を既に購入していたのですが、英語のボキャブラリーが余りにも足らず、1ページを読むのに10分以上掛かる時もあり、途中で挫折したところでした。
日本語に翻訳されていますので、英語版とは多少ヒクソン先生のニュアンスが違うところはあるかと思います。
それでも御本人の英語のレクチャーを聞いていても、説明が抽象的で「言っている事は分かるが“理解する”事が難解」というのはよく聞く話です。
ただ、それは技術が神秘的なものだからではなく、それほどまでにシンプルかつ本質的な『概念(コンセプト)』だからだと思います。
韓国柔術界の父であるジョン・フランクル教授は常々ヒクソン先生とヘンリー先生の柔術は「IT'S SIMPLE, NOT EASY」と語っています。
大まかにお伝えすると、内容としては、
・ヒクソン先生のヴァーリトゥードでのズールとの対戦
・日本でのMMAの試合の経緯
・数年前に患ったパーキンソン病
・長男ホクソンの死に対しての葛藤
・呼吸法
・「INVISIBLE JIU JITSU 」
です。
ズール戦や日本での試合は以前の著書でも触れられていたのでそこまでの驚きはありませんでしたが、これまでの著書では触れられなかった「INVISIBLE JIU JITSU」について具体的に言及されています。
重要な要素として、LATENS JIU JITSUでも非常に重きを置いている「ベース」、「コネクション」、他にも「レバレッジ」、「エンゲージメント」、「タイミング」について語られています。
ヘンリー先生のプライベートレッスンを受けた際に、「技」ではなく「コンセプト」を学ばなければ深く理解するのが難しいと感じていました。
レッスンでは全くグラウンドにならず、立ちでの「ベース」とは何かについて3時間の指導を受けた事は衝撃的でした。
余りにもシンプル過ぎて、当時はそれがどれだけ重要か理解出来ずにいましたが、“同じ動き”を繰り返す事で、数年後にその大切さがようやく理解出来るようになりました。
こちらの著書の中で本当に数行ですが、息子のクロン氏について語られていました。
柔術の試合に出始めてから黒帯の直前まで51連勝(オープンウェイト含む)、そしてその全てが一本勝ち、ADCC2013もオール一本勝ちでの優勝という通常では考えられない成績を残しているのはヒクソン先生の柔術の特殊性を表していると思います。
10年ほど前、日本で開催されたヒクソン先生のセミナーで、技の受け手を務める機会に恵まれました。
クローズドガードにおいて先生から「立ってみて」と促され、全身の力を振り絞りました。
しかし、力で無理矢理抑え込まれている感覚は全くないにもかかわらず、先生の見た目からは信じられないほどのウェイトが身体に掛かっていました。
空気を読まずに全力で立とうとしましたが、今まで経験したことの無いプレッシャーが足に掛かり、全く上がらなかったのです。
同じ状態から「腕を引いてみて」と言われた際も同様でした。
先生がウェイトをこちらの腕へと掛け、そこにほんの僅かな圧を加えられた瞬間、骨が容易に砕けるような感覚を覚えたのを今でも鮮明に記憶しています。
その後二日間にわたり残った腕の激痛は、あの瞬間に体感した「見えないプレッシャー」が、決して錯覚ではなかったのだと物語っていました。
・「マットの上でなく人生で勝利すること」
この言葉が一番響くと共に、LATENS JIU JITSU の概念とも一致していると再確認できました。
僕自身がまだAOJ所属でムンジアルなどに出場していた際に、筋力やスピード、瞬発力を駆使したアクロバティックな動きはいずれ肉体の衰えと共に表現出来なくなると常々感じていました。
もちろん、ムンジアルの功績とアクロバティックな技で試合で勝ち、結果を出すことは非常に重要です。
実際に自分が試合に出ていた時代では、マイキー・ムスメシやミヤオ兄弟はベリンボロで大会を総なめにしていたのを目の前で見ているので、非常に印象的でした。
そして現在、自分もマスター世代になり、ヒクソン先生の基本の動きを駆使し、より深く理解していくことが自分にとって大切だと実感しています。
実際の動きの中でヒクソン先生の概念を再現しようとすると、とても難しいので失敗して極められることも多々あります。
もちろん極められると悔しい気持ちにはなりますが、極めにいくことに意識を向けると、最終的には「勝つこと」を意識してしまい、「概念」を疎かにしてしまうので、そこは辛抱強く取り組んでいます。
私自身も私生活で色々とあり、自分自身を見失い掛けましたが、これまで柔術をやってきたことや、この柔術に共感していただいた方々のお陰で何とか持ち堪えることが出来ました。
昨今ではスマートフォンやAIの普及で、五感を使って何かを体感する事が以前よりも少なくなり、人としての感覚がなくなっていく事を著書の中でヒクソン先生は危惧しています。
柔術をやる方々には当たり前のことなのですが、日常ではありえない絞め技や関節技の“苦しさ”や“痛み”は、この瞬間に集中し、生きている事を実感できる尊い体験だと改めて感じました。
自分もLATENS JIU JITSUにおいて、ポジションやサブミッションを取ることの勝ち負けではなく、取り組んでいる方の潜在能力を引き出せる事を理想としています。
最後に、ヒクソン先生の柔術、そして哲学は、人生の辛い時に支えになり、一生を掛けて取り組める柔術だと改めて感じました。

「わが柔術哲学」
ヒクソン・グレイシー、ピーター・マグワイア、棚橋志行
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石井拓(いしい•たく)
ラテンス柔術主宰。1990年千葉県出身。20歳で単身ハワイへ渡り柔術を始める。AOJに2012年のオープン当初から2015年まで所属。2014年、紫帯でパンアメリカン選手権(アダルト•ガロ級)で優勝。メンデス兄弟より茶帯授与。2015年、茶帯で全米選手権(アダルト•ライトフェザー級)で優勝し選手生活に区切りをつけ帰国。同年、雑誌の取材でヘンリー・エイキンスに出会い、以後師事。2024年4月、アジア人初のヘンリーの黒帯となる。2025年7月より「LATENS JIU JITSU」として活動。
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